温泉と海藻と磯焼けと。
関係なさそうで関係ある海の話

地球上には8000〜数万種の
海藻がいると言われています。
暖流と寒流が入り混じり、
岩場が多い日本近海は世界でも
海藻の種類が豊かと言われており、
約1500種が生息しているそうです。

日本人は古来から
身近にあった海藻を
食べたり、薬にしたり、
神事に使ったりしてきました。
 一方、東アジア以外の
国の人々はこれまで
「え?海藻って食べられるの?」
程度の認識だったのですが、
近年、健康に良い食べ物として
人気が急上昇。

特に、菜食主義者が全人口の
約15%にもなるヨーロッパでは、
最先端の食材として
注目されているんです。

 そんな海藻ですが、
このところの日本では、
海藻が無くなる「磯焼け」が
進行しているほか、
消費量もゆるやかに減少しています。

 海藻はピンチなのか、
はたまた今後伸びていくのか。

というわけで、ここでは日本各地で
海藻養殖を行うだけにとどまらず、
養殖した海藻を自ら製品化し、
食べ方の提案まで行う海藻ベンチャー企業
「合同会社シーベジタブル」の
共同代表・友廣裕一さんに
話を聞いてみます。

ウニがたくさんで困る?
磯焼けのメカニズムとは

—最近、日本沿岸で海藻が無くなる「磯焼け」という問題が起きていて、海の中で砂漠化が進んでいると聞きました。
やはり水温上昇が原因なんでしょうか。

友廣 水温上昇は全く関係ないとは言いませんが、
現在の磯焼けの一番大きな原因は海水の温度が上がったことによる藻食性生物の食害と言って間違いありません。

—藻食性生物?魚が海藻を食べちゃうってことですか?

友廣 そういうことです。魚ならアイゴやイスズミなど、ほかにもガンガゼやキタムラサキウニなどウニの食害も非常に大きいです。

—ウニが原因なんですか。ウニも好きだし昆布も好きだし悩ましいですね…。

友廣 ウニは、水温が2℃以下になるとほぼ餌を食べなくなるらしいんですよ。北海道南部はこれまで冬~春の一定期間、海水温が4℃以下になり、そのすきに昆布が芽吹いて成長し、昆布の森みたいに茂っていました。でも最近、4℃以下の期間が短くなってしまい、昆布がしっかり芽吹く前にウニが食べちゃうんですよね。

—なるほど。海水温の上昇は昆布そのものの生育というより、周辺の生き物に影響するんですね。

海で海藻を栽培することは、
天然藻場(※)の
代わりになりますか?

※「藻場」は、沿岸部にある様々な海草・海藻の集まりのこと

—仮にこのまま藻場が減っていくと、私たちは海藻を食べられなくなっちゃうんでしょうか。

友廣 藻場は人間が食べる海藻の生産っていう役割もありますが、ほかにも海の生物の産卵場であり、子育ての場であり、餌場であり「海のゆりかご」と言われるほど多くの生き物を育んでいます。これが無くなると海の環境は大きく変わってしまいます。ですので、海藻を食べられなくなるだけではなく、さらに多くの影響があります。

—それは大変ですね。シーベジタブルさんの海藻の栽培は海の環境になんらかの効果があるのでしょうか。

友廣 海で海藻を栽培することは、藻場としての効果は基本的には天然と同様だと考えています。底に生えるわけではないので、貝類や根付きの魚にとっては間接的な影響となりますが。年間の一時期だけ「季節藻場」として栽培されることが多いですが、そこでも小さな海の生き物がたくさん育まれているんですよ。

—そうなんですね!それならどんどん海での栽培もやるべきですね。美味しい海藻も食べられるし。

「海藻をもっと美味しく」
へのチャレンジ

—シーベジタブルさんは栽培の他にも、新しい海藻の商品づくりもやってますよね。

友廣 ヨーロッパへ視察に行ったとき感じたんですが、食材にしろ美容にしろ、僕らでは考えられないような自由な発想で海藻を使うんですよね。私たちも新しさを感じられる海藻製品を開発して、新しい文化がつくれたらいいなと思っています。

—確かに、日本は良くも悪くも伝統的な料理で使いますよね。それはそれで美味しいけど、想像もつかないっていう感じにはなりませんね。

友廣 海藻はやり方によって何にでもなりますし、まだまだ到達してない新たな美味しさもあるはずなんです。海藻の可能性を感じてもらえるようなものを作りたいですね。

—それでさらに海藻を一般的な食材にすると。

友廣 マイタケやエリンギは、10年以上前まではスーパーマーケットなんかでは見かけない珍しい食材でした。でも安定して生産できるようになったことや、それに伴う流通の発達で急激に一般的な食材になりました。海藻がそういう存在になるといいなと思っています。

「海のごちそうウィーク」で
トライする
「海藻×温泉」コラボレーション

—10月10日~16日の「海のごちそうウィーク2022」期間中、シーベジタブルさんは温泉道場さんとコラボレーションするそうですが、これも海藻の新たな可能性をひらく試みですか?

友廣 うちで栽培するスジアオノリは、藻のなかでももっとも香りが良いと言われることもある海藻ですが、かつて主要産地だった四万十川での生産量が0になってしまい、食文化の継続が危ぶまれていた海藻です。これを陸上で栽培しているのですが、生育状況によって色が薄かったり、他の藻類が付着してしまったりして販売ができなくなってしまう規格外が出ちゃうんです。今回はそれをお風呂に入れたり、海藻泥パックを作ったり。レストランでは、規格外ではない美味しいスジアオノリやトサカノリを温泉道場の各店舗で提供している料理にトッピングしてもらって、食べることを通して栄養もとりながら、海藻の香りや食感を感じてもらいたいなと思っています。

—お風呂に海藻ですか、これまで経験したことないです。料理へのトッピングも意外な組み合わせを見つけたりして楽しそう。

友廣 温泉ってリラックスしたり、家族と語らったり、ゆっくりした時間を過ごせるじゃないですか。そんな場所で香りとか味とか、海藻の特徴を感じてもらいたいなと思っています。「海のごちそうウィーク」の期間中、気軽に足を運んでいただきたいですね。

—磯焼けは自分にとって遠い話かなと思っていましたが、食べ物と絡めて考えるとずいぶん身近に感じます。新たな取り組みで、知らなかった海藻の魅力を発信するシーベジタブルさん。単純に「海藻を食べたら磯焼け解消」となるのは難しいと思いますが、もしかしたら回り回って解決につながるかもしれない。と考えると少し食べてみたいなと思います。