CONTENTS
・マジで飯が旨かったので函館に移住しました
・海の環境変化と魚種転換でブリ食の推進が待ったなしに
・美味しいものをちゃんと作ることが大事
・自分は外来種 根付いている人達と連携を
・「知ってから食べる」 心に残る食体験の仕掛けを
・数年間の集大成!「函館ブリ塩ラーメン」
・美味しく食べることが海の課題解決につながる
海に囲まれた日本には、
暮らしの中で育んできた海の食文化があります。
食を切り口に、海と人との関わりを創発し、
海を大切にする気持ちをはぐくむ連載。
知れば知るほどもっと海が大切になる。
こくぶんしんご/埼玉県出身。北海道ブリリアントアクション・プロデューサー。一般企業で働いたのち、函館に移住。地方創生の様々な取り組みを行う傍ら、社団法人Blue Commons Japan代表理事に就任、ブリを函館の新たな食文化にする活動や、食を通して海の大切さを伝える活動に取り組んでいる。
CONTENTS
・マジで飯が旨かったので函館に移住しました
・海の環境変化と魚種転換でブリ食の推進が待ったなしに
・美味しいものをちゃんと作ることが大事
・自分は外来種 根付いている人達と連携を
・「知ってから食べる」 心に残る食体験の仕掛けを
・数年間の集大成!「函館ブリ塩ラーメン」
・美味しく食べることが海の課題解決につながる
北海道に移住したのは27歳の時。それまで東京で不動産営業として4年間働いていましたが、移住の決断は早かったですね。実家は埼玉ですが、もともと食に興味があって、美味しいものがあるところで生活したいなと思っていました。函館に決めた理由は、水産海の魅力!マジで飯が旨くて(笑)。移住のモチベーションの8割は海産物の美味しさでした。
ところが2017年ぐらいから、あんなに安かったイクラが値上がりしたり、イカが獲れなくなって、山ほど売りにきていたおばあちゃんが全く来なくなったり。海の変化を身近に感じる出来事がいくつもあって、ショックでした。コロナで観光客も激減し、店も潰れていくばかりで。3年間くらいの間に海がガラッと変化した印象でした。北海道の観光資源である食文化への影響が甚大だという問題意識が強くありました。
北海道の食文化の代表であるサケ、サンマの不漁が続く一方で、北海道のブリの漁獲量は約10年で30倍以上に急増。全国有数のブリの産地になりましたが、それまでブリが食卓に並ぶ機会がなかったので、北海道民の消費量は全国平均の2分の1程度と低迷。獲れている魚種を有効活用するために、ブリの食文化づくりが急務で何か手を打たなければという思いが日に日に強くなっていきました。
ブリの食文化づくりが急務だという共通認識が広がる一方で、漁師さんにはまだ「(ブリが獲れすぎて)困ったなあ」という感覚の方も強いようで、最初はなぜブリをPRする必要があるの?という反応でした。
しかも、函館近海で獲れるブリは、「イナダ」や「フクラギ」と呼ばれるサイズが小さいものや、脂身が少なくパサつき感のあるものが多く、ブリに対するイメージの改善も必要でした。
最初に取り掛かったのは、ブリを美味しく食べてもらうためのメニュー作り。はじめにブリを美味しく食べてもらってから、海の背景や未来に関心を持つ人を増やしていくことを目指しました。
今回のプロジェクトのキーパーソンの1人が、函館の「炭火割烹 菊川」という料亭の料理人・菊池隆大さん。ブリの切り身を一度牛乳に漬け込むことで特有の臭みをなくし、さらに旨み成分を加えるために地場産の昆布エキスにマリネする下処理方法を提案してくれました。おかげで、下処理に時間をかけてから揚げるとても美味しい「北海道ブリたれカツ」のレシピが完成しました。この美味しいメニューがなかったら、自分たちの活動はその後うまく展開していかなかったと思います。
「北海道ブリたれカツ」はスタート時から飲食店22店舗に導入していただきました(2023年には北海道内の飲食店106店舗に連携拡大)。当時役員をしていた会社には飲食関係につながりを多く持つ地元メンバーがいたので、親しい飲食店に導入の依頼をしてもらいました。まだ世に出ていないメニューのレシピを持ち込んで、アレンジしたものを二週間で考えてほしい、と無茶なお願い(苦笑)。
まだ移住10年目くらいの自分が飲食店に「はじめまして~」と売り込みに行っても、何軒も断られました。
自分たちが明確な課題感を持って真摯に取り組んでいることが地元の人たちに伝わっていくのには少し時間がかかりました。
たくさんの飲食店を巻き込んでいけたのは、思いに共感してくださり「ローカルな人のご縁」が拡散したことが大きかったです。移住者は、地域にとっては外来種。だから地元に長く暮らし、根付いている方たちと思いを共有して、連携することがすごく大事だと思います。
元は小学校の先生になろうと思っていたので、子ども達の心に届けるにはどうしたらいいかを考えることに関心は高かったのです。まず食べて美味しいことが一番大事。でも、ただ消費させる食べ方にしないためにも、最初に学んでから食べてみて「あ!すごく美味しい」とポジティブな印象が残る食体験にしたくて。
背骨となる大事なメッセージは、実際に子どものリアクションを見ながらシンプルに、より伝わるものに変えていきました。最初は、子ども達に「海のために食べよう」と言っていましたが、「知って食べたらブリはもっと美味しい」というメッセージに変えました。
例えば、学校給食ではブリたれカツを食べる直前に、「ブリ食べたことある人?」「ブリ好きな人いる?」という問いかけから始めて、地域の海の変化やブリについての紙芝居を見せます。そのあと、紙芝居の内容をデザインしたランチョンマットを敷いて給食を食べる。マットは家に持ち帰ってもらいました。
話を聞いてからすぐに食べるので体験として心に残りやすいですよね。知識が残るよりも、美味しい感覚や楽しいと感じる気持ちのインパクトを残す工夫をしました。家で親に魚や海のことを話してくれた子ども達も多かったようで、給食との連携の意義を感じました。
思い入れが強いのは、「函館ブリ塩ラーメン」の商品開発です。『令和4年度北海道新技術・新製品開発賞』の食品部門で大賞を受賞して、1年間で1万食を達成するほどヒットしました。
道南で取れる「脂分が少ない」ブリの特徴を活かして開発した出汁に最適な「ブリ節」を、函館の食文化(塩ラーメン)と融合させることで完成した自信作です。この後出した「北海道ブリ醤油ラーメン」も、あっさりしつつもコクがしっかりしていると、好評です。
2022年には観光地としても有名な函館朝市駅二市場内でブリの加工品の展開や飲食メニューの提供を行うアンテナショップ「函館朝市 地ブリショップ」をオープン。取材でラーメンや「ブリたれカツバーガー」の試食や撮影の依頼が入っても自分たちの店で対応できるようになり、発信が容易になりました。
実は、最初からラーメンを作ることを目標設定していたわけではありません。ラーメンは海の課題解決としてそれまで積み上げてきたことが繋がって到達できた集大成です。そもそも消費者と海に携わる人たち、両方が今の海の課題をなんとかしたいという思いがあったから、ここまで形になったのだと思います。ただブリをたくさん食べさせたいのではなくて、地域としてブリを産業化させて、貢献していきたいという自分たちの思いを、多くの人たちに受け入れてもらえたと感じました。
海の課題を知ってもらうために伝えるのではなく、美味しく食べてもらうために知ってもらいたい」という思いがあります。このプロジェクトを通して改めてわかったのは、美味しく食べることが海への興味喚起になり、それが課題解決へと繋がっていく最初の一歩になるということ。海のことをよく知っておくと、目の前の食事が美味しくなるんです。
今はこのブリのプロジェクトを事業化して、自分たちの力で継続させていくことが使命だと思い、「ブリ節」や「函館ブリ塩ラーメン」などの卸業務に取り組んでいます。商品のパッケージはもちろん、味や風味を通して海のことを伝えるための工夫をしながら、ただ消費するだけではない食体験を、もっと発信していきたいと思っています。